ムケイチョウコク
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認知科学研究者 中野優子
スペシャル対談
この度は、『反転するエンドロール』公演パンフレットをお求めくださり、誠にありがとうございます。
引き続き、ムケイチョウコク✖️認知科学研究者 中野優子さんの対談をお楽しみください。
とてもディープなトピックはこちら♪
・ムケイチョウコクの創作はどう編み出されたのか
・創作プロセスを公開しているのはなぜ?
・なぜイマーシブシアターなのか
・ムケイチョウコクのイマーシブシアターだからこそ、成し得ることとは
・演劇体験がもたらし得る、教育効果とは
ムケイチョウコクの創作はどう編み出されたのか
◆最初にあったリサーチの時間
中野 では次に、創作方法についてお聞きしますね。そもそもの大前提に「決まらないことを据える」とか、自分で自分の体験を選び取っていくパースペクティブ、つまり「自分のビューを切り取っていくこと」を実現するために、どういう方法で創作しているんでしょう?もう既に何となくこのやりとりで覗かせてもらってる気もするんですが、もっと詳しく聞きたいです。
智絵 やっぱうちの構成作家の夢子からですかね、これは。
マサオ ですね。
夢子 いや〜…ほんと「どうやって作ってるんだろう?」って思う…
智絵・マサオ (爆笑)
夢子 でも思い返して、最初の作品を作る前にリサーチの時間を取ったことを思い出しました。仲間内で興味のある人に声をかけて集まって、そのとき我々が漠然と考えてた「こういうことってやれるのかな」「実際にやって試してみたい」っていうことを、リサーチしたんです。
中野 ふむふむ!
夢子 そのリサーチの時間が良かったんだなって、今になって改めて思います。その時まずやってみたのが「目の前のお客さんを役にすることはできるのか」。色々探ってみて、その時間から持ち帰ったものから私がなんとなく構成を考えて、「こんなのどう?」ってマサオさんと智絵さんに見せて、「じゃぁそれを作ってみよう」って作品を作っていった。それが気がつけば余りに爆速だったので、もう随分前のことのように思える(笑)。
マサオ ほんとだよね(笑)。作中で《1人の俳優がひとりのお客さんに話しかけることでシーンを作ること》を、僕らは《1on1》って呼んでいるんだけど、そのリサーチでかなり色々試したのが、《1on1》はどうやったら成立するのかってこと。
中野 へぇ〜!
夢子 俳優がお客さんにどんな風に接すると、お客さんにその役の設定がスッと入っていけるかとか…あとそうだ!1on1が同時多発してるのを外から見るのは面白いのか、っていうのもやった記憶がある!
智絵 うん、やったやった。登場人物役が、隣の噂話に耳を側立てるのは楽しいのか、とかね。普段はできない《盗み聞きをしていい演劇体験》って、きっと楽しいんじゃない?って(笑)
夢子 1on1をして、自分は誰で、どういうことを思ってるんだなって設定がわかった状態で、他の人の会話を盗み聞きすると…ヤバくない⁉︎面白いね!って(笑)。そういうのを色々やりましたね。だから今のシステムの土台みたいなことは、そのリサーチで見つけたことから作っていったことを思い出しました。
◆ムケイチョウコクの《1on1》はどう生まれたのか
中野 そのムケイチョウコクの《1on1》はどうやって思いついたんですか?最初からイメージとしてあったんでしょうか?
智絵 えっと、もともとは確か…イマーシブシアターの面白さの要素のひとつ、『《同時多発でいろんなビューを見られること》を、小さな空間で実現するにはどうしたらいいか』っていう課題から発見したんだと思います。
中野 ふむ!
智絵 たくさんのビューって、フロアやエリアがたくさんあれば色々作れるけど、当時私たちはワンフロアしかないカフェからスタートしたので、「エリアを分けることでたくさんのビューを作る」ことには限界があったんですね。それで、例えばある作品で、こっちでは結婚式やってて、こっちでは花嫁を奪いにくる男が虎視眈々と狙ってるということが起こってた。それを、《同じ結婚式に居たとしても、「花嫁の友人」が見ている景色と、「花嫁を奪いに来てる男の存在を知ってる人」では、見ている景色が違ってくるはずだよね》って話になったんです。ワンフロアで如何に違うビューを見せられるか、という課題に、お客さんを登場人物にしたらそれが可能なんじゃないかっていうのを、いろんな話の中で発見したんだよね、確か。
夢子 そうだそうだ。「心の中にストーリー分岐を作る」っていうのをやろうって、最初はそう言ってた!
マサオ・智絵 そうそう
智絵 ただお客さんを登場人物にするといっても、観にくる方は当然、演技をやったことがない方を想定するわけです。そういう人にいきなり「はい、即興で演技してください」は、いくらなんでも難易度が高すぎる(笑)。じゃぁどうしたらお客さんに役になってもらえるだろうって考えたんです。それで、俳優からの問いかけに「はい/YES/うん」っていう肯定的な返事をしていくことで、お客さんのキャラクターが成り立つようにする、俳優の問いかけをそういう風に設計していくっていう方向性が、そのリサーチの中でできていきました。
夢子 うんうんうん。そうだね
智絵 「私たち、高校の時からずっと一緒に遊んでるじゃん?」って俳優が問いかけることで、そのお客さんは「自分はこの人と仲がいい高校の同級生なんだな」ってわかる。そういうのをリサーチで探っていったように思う。
中野 すごい!
夢子 結構すんなり、「あ、イケるやん!」みたいな感じになったよね
智絵 うんうん!
夢子 マサオさんがめっちゃテンション上がってた。「これめっちゃおもしろ〜い」って言ってたの覚えてるもん。
マサオ あはは
夢子 意外とサクッと見つかったような。
マサオ まぁでもそこは、俳優の力がめちゃくちゃ高いっていうのが大きかったね。
夢子 あーうん、確かに!あと、ムーブメントも色々試したな。ムーブメントで渡せる情報にはどんなものがあるか、とか。
マサオ うん、そうだったね。1作目から今の再演の稽古まで通して改めて振り返ると、ずっと同じようなことやってるなって思う。これを更に良い体験にしていくためには、要素として何が必要なのか。その都度改めてみんなで話し合って、一回一回更新していく。それをずっと繰り返してる。
中野 お話を聞いていて、今私がすごく興味を惹かれたのが、実現させたい要素を実現するために、状況設定を上手に使う作り方をしているんだな、ということでした。
3人 あー。
中野 すごく興味深いです。物語とか1on1とかムーブメントの《内容》を考えるのではなく、そこを引き出すための外枠とか設定をどう構成していくかということで、作品を作っている。《どうやって実現するかというマインド》自体が創作過程になっているってことですよね。え、そういうやり方って、他のイマーシブシアターでもやってるんですか?
3人 ……(顔を見合わせて)
智絵 それ…は…
マサオ 僕らが知りたい
3人 (大爆笑)
夢子 そうだねぇ、知りたいよね(笑)
中野 すっごく面白い創作の特徴だなって思いました。
マサオ うーん…うまく説明できてるかわかんないけど、プラットフォームを作ってるような…プラットフォームを作ることがイコール作品を作ることになってきたというか。でもこれって多分、ムケイチョウコク発足のタイミングが今だったからだと思う…
中野 ふむ⁉︎プラットフォームというのは…
マサオ Twitterとかクラウドファンディングっていう《システム》みたいなことっていうか…。お客さんが入ってきて自分で選んで遊べる《枠》を作るっていうことが、たぶん今の時代には《作品と言えるもの》になったというか…。昔は枠を作るだけでは作品とは言えなかったと思うんだよね。僕らは去年立ち上げた団体だからそういう考え方になってるんじゃないかって印象が、僕の中にはあるかも。
中野 なんで、今だったらそういう風になったんだろうね。えーと、なんでそういう社会になったんだろう?
マサオ えっと…。「今は「これが面白いんだ」ってことをみんなが自分で発信できる時代だから。だからこそみんなが発信できる場所である《外枠の可能性》というところが大きいんじゃないかなって思ってる。
智絵 ムケイチョウコク作品は、作品のサイズ感的にお客さんの顔がすごく良く見えるし、登場人物役のお客さんとほんとに交流をしている。作品全体を通せば傍観者役のお客さんともとても深い交流をしていると思うし、なおかつ終演後の感想戦みたいな時間で、お客さんの声をダイレクトにキャッチできている。だから《外枠》的な創作過程を発信することや、お客さんからフィードバックをもらえる、みたいな在り方まで含めて、《いま作りたて》って感じがする。
中野 ふむふむ。
智絵 たくさんの人に面白いって思ってもらえているポイントには、そういうこともあるかもしれないです。
中野 うーん!ムケイチョウコク作品は、内容もちろん面白いんですけど、今こうして話を聞くと、プラットフォームを作ることが作品創作になるっていうその創作スタイル・在り方がすごく面白いです。こういうタイプの創作は初めてかも。
夢子 わお!
智絵 すご〜い!
ムケイチョウコクが創作プロセスを公開しているのはなぜ?
中野 ムケイチョウコクの創作について、もう一つ聞きたいことがあるんです。ムケイチョウコクはこういった創作のプロセスを積極的に公開したり、LINEオープンチャット「connect」で、創作のブレインストーミングをチャットメンバーに募ったりしていますよね。創作過程をそんな風に公開なさっているのには、どういった意図、狙いがあるんでしょうか?
マサオ これは、僕から喋りますかね。
智絵 お願いします。この点は、マサオさん特にこだわりですもんね。
マサオ お客さんが一緒になって作品を作る、物語の中でお客さんにボールが渡ることは、今現在ムケチョが作ってるものにとって絶対外すことのできない重要なポイントなんだよね。そしてそこにはプロセスも含まれてると、僕らは考えてるんです。しかもかなり大きな部分を占めている。
中野 うんうん。
マサオ これはちょっと辛口に聞こえるだろうけど…。ビジネスモデルとしては成立していない小劇場がずっと無くならないのって、普通に考えたらちょっと不思議じゃないですか。基本的には興業として成り立っていないし、お金を稼げるわけじゃないし、今でも殆どの人はお金が大変な中で小劇場演劇を作り続けている。これって需要と供給という観点でいくと、小劇場の需要って、お客さんだけではなくて、作り手側に存在している部分もとても大きいと思うんです。
智絵 耳が痛いことでもあるね。でも、
マサオ そう。それって全然悪いことじゃない。だって文化祭とかお祭りとか、結婚式の二次会でやるパフォーマンスを皆でワイワイ作ろうぜとかって絶対楽しいじゃないですか。みんなで何か一個のものを作りたいって思うのは、普通にすごく健全な心の動きだと思うんだよね。そしてそれはまさに、ムケチョが理念に掲げている《お客さんが1ピースなんだよ》ってことと一緒。「だから皆で作ろうよ」っていうのが、僕らが創作プロセスを公開している理由。
夢子 うんうん
◆一緒に楽しみたい、という動機
マサオ 楽しいって思ってもらえるものを提供したいっていうのが動機だし、逆にお客さんの側から何か課題やお題を与えてもらうとかもすごくいいと思うんだよね。それを「connect」で色々試している感じ。みんなで同じ時間を共有すること、《みんなで作る》を共有していくことは、ムケチョがやりたいことのコンセプトとしても一緒だなって思うから、プロセスを公開することはもうかなり、《必然》っていうか、『それでしょ!」って(笑)
夢子・智絵 ね〜!
マサオ だってムケイチョウコクの面白さってそこでしょ!
夢子 「作ってないときも楽しませたい」ってマサオさんはいつも言うんです。
中野 うんうん
夢子 今聞いてて「楽しませたい」っていうのはつまり「一緒に楽しみたい」ってことなんだなって思ったよ。そうだよね、一緒に楽しみたい!
マサオ (笑)そうそう!あとさ、自分たちがやりたいことが、どうも前例があんまりないらしいぞっていうのも大きいよね。
智絵 そうだねぇ。今まで見たことないものを、前情報無しでお金払って観に来て楽しめる人は、多分そんなに多くないと思うし(笑)
マサオ 前例がない、こんなことやるんかい!?っていう驚きを楽しんでくれる人もいっぱいいるんだと思うんだけど、実は僕らが本当に提供したいことはそれじゃないんだよね。僕らがやりたいこと、提供したいものは、そのびっくりが無くてもずっと作品として楽しめるもの。
夢子 そうそう。ちゃんと作品として楽しんでほしいし、楽しめるものを作っている自信もある。
マサオ だけど前例がない以上、それを知らないお客さんにムケイチョウコク作品を作品として楽しんでもらえるためには、お客さんに楽しみ方や共通言語を持ってもらえる場を、しっかりと押し出していかなくちゃいけない。「我々こういう作品を作っているんです」「だからこういう風に楽しんでほしいんです」っていうことを、どんどん発信していかなくちゃいけないなって思うし、その発信をキャッチしてくれた人が「面白そうだな」って、お客さんとして来てくれたら、それはすごくハッピーなこと。宣伝と啓蒙を一緒に進めていくための有効な方法でもあると思うんだ。
智絵 イマーシブシアターは色んなやり方がある中で、私たちの作るものはすごく《演劇寄り》って言われるんですけど
中野 うんうん、そうですよね
智絵 《イマーシブという新しいジャンルの中でも更に新しいことをやっている》という自覚があるので、それを“どうやって作ってるかということ自体に価値がある“よねって、最初の時点で思ったんですよね。私たちも他のイマーシブシアターがどう言う風に作ってるのか正直知りたいんです。でも今のところ誰も作り方を公開してくれてないし(笑)
夢子 あはは
智絵 「今作ってるこれ、面白いんじゃないかな!」「これ公開したらみんな楽しんでくれるんじゃないかな!」って公開していったことで、さっきマサオさんが言ってたみたいにその過程を楽しんでくれた人が公演をより楽しんでくれたり、逆に公演を楽しんでくれた人が更に過程に興味を持ってくれたりして、発足からたった1年ちょっとなのに、今実際にすごくたくさんの人に興味を持っていただいているんですよね。それってきっと、創作プロセスを公開しているから、次やる作品だけじゃない情報を継続して発信できているからだろうなって思います。創作過程を公開することで興味を長く持っていただけるんだなってことを、我々今ものすごく実感しているので、とても楽しく軽率に!垂れ流しております!
みんな (爆笑)
中野 今の皆さんの話で、作品の始まりをどこに置いているのかということに新鮮さを覚えました。
マサオ 作品の始まり?
中野 そう。通常、演劇とかパフォーミングアーツの鑑賞体験というのは、始まる本番を、決まった場所、決まった時間に観に行って、上映が終わって帰ってくる、というのが普通じゃないですか。それに対してムケイチョウコクは、創作のプロセスを共有することで、その作品の上演開始時間のもっと前から、鑑賞体験というか作品に触れる体験が始まっている。だから、作品の「創作プロセスを公開」してるんじゃなくて、「本番の前からもう作品上演を始めている」のかなって、今話を聞いてて思いました。
智絵 わぁ素敵!
中野 それだけ一つの作品を柔らかくずっと観ている、一緒に巻き込まれている、自分の中に染み込んできているという状態が長く続いていて、最後の仕上げがいわゆる本番の日、という位置付けなのかな。今の話を聞くまで、私は《創作プロセスを公開する》って思ってたんですけど、そうじゃなくて、むしろ《創作プロセスを共有している》という捉え方の方が近いですね。そこ込みでもう本番が始まっている。
夢子 はい、そうです!《創作プロセスをシェアしている》んです。
智絵 ムケイチョウコク作品は、こうして創作プロセスを公開しても、作品上演が始まったときに、それがネタバレとなって本番の楽しみを阻害する、ということのないタイプの作品だから、というのもあると思います。本番で感じるビューは、本当に毎回その人の見るその時その時でどんどん変わっていくし、その瞬間を楽しんで貰えると思うので。
中野 うんうん
夢子 そこにめっちゃ自信があるっていうのもあるよね!
智絵 あるね!
夢子 絶対盗まれない。もちろん多少は調整して、システムを丸ごと盗まれるほどは出してないと思うんだけど(笑)。でももしシステムが盗まれたとしても、このクオリティは盗めない。だってこのクオリティって、ムケイチョウコクのシステムだけじゃなくて、俳優やスタッフや応援してくれている素晴らしい人たちみんなで作り出してるものだから。
中野 おお!
マサオ うん、そうだと思う。
中野 そういう絶対的な自信をベースにして、《プロセスから本番が始まっている》という感覚や、《作ってないときも一緒に楽しみたい》という動機、《共通言語をお客さんと共有していくことで、お客さんもより楽しめる感度が広がる》という利点。大きく捉えてその3つの狙いが、創作プロセスをシェアしている理由なんですね!うわぁありがとうございます!
マサオ いやいや!こちらこそありがとうございます
智絵 すごいです、そんな素敵に簡潔に纏めてくださって!
中野 とんでもない、私もすごい勉強になっています。
なぜイマーシブシアターなのか
中野 もう今までにもだいぶ話題に上がっていたように思いますが、こちらも改めてまた教えてください。皆さんが作りたいもの、なぜイマーシブシアターなんでしょうか。
◆演劇の感動体験
智絵 最初にもちょっと言ったんですけど、私は演劇というものを長らくやってきて、「めちゃくちゃ感動した!」っていう観劇体験をしにくくなっていたところがあったんですね。そんなときに初めて観たパンチドランクのイマーシブシアターがとんでもない体験で、それで当然「自分でも作りたい!」って思った。それから7、8年言い続けて、イマーシブ的作品に出演はしたんですが、自分で作るまでは踏み出せなかったんです。
それが2020年に夢子が「やろうよ」って言ってくれた時に「あ。これ出来るわ」って思った(笑)。もともと夢子とは十数年前から俳優仲間で、非常にパワーの強い女優で作家で演出家で振付師なのを知ってたから、「あ、夢子がこう言ったら出来るやつだな」ってなりました。
マサオ わははは
夢子 くぅっっっ
智絵 私が10年近くかけてずっとずっと詰めているものを!ほんっと!ぴょんって!すっごい行動力でやってしまう人なので!
中野 (思わずにこにこ)
智絵 それでclubhouseでイマーシブシアターやりたいってトークルームで話してたら、初めましての美木マサオって人が入ってきた。それがムケイチョウコクの始まり。
夢子・マサオ ねー!
智絵 日本でもイマーシブシアターが流行り出したなって時にコロナが来て、劇場に足を運ぶことそのものが難しくなって、それでも…もしかしたら「だからこそ」かもしれないけど、客席と舞台という分かれた空間を越えて、演劇的な交流をもっと密に楽しみたい、そういう作品を作ることに価値があるって考えるメンバーが集まれた。しかも集まった途端爆速で動き出せて、お客さんに求められている今があるってことは、本当にすごくラッキーだなと思います。
夢子 ほんとそうだよねぇ。でもその爆速スタートを切れたのには、智絵さんがずっと温めて考えてくれてたことが機動力になってくれた部分も大きいと思うよ。
智絵 そう言われると嬉しいなぁ。
夢子 (にっこり)
智絵 なんでイマーシブシアターだったんだろう?そうだなぁ…私、脚本演劇も大好きなんですけど、それを突き詰めるほど、その場その瞬間の交流が生むものだったり嘘のない交流にとても惹かれるようになっていったんです。脚本演劇からもたらされる感動ももちろん今でも大好きなんだけど、交流の仕方がもっと深められたり広げられたらいいな、違う表現の仕方もやってみたいなって思ったタイミングでムケイチョウコクが作れた。だから今やりたかったことをガッツリ作れているのが、イマーシブシアターだったんだと思う。
◆一番面白いと思っていたことがダイレクトにできる
夢子 私は自分でミュージカルとか演劇的なショーとかを作っていて、その頃から第四の壁がありすぎないものが好きだったんです。(※第四の壁:舞台上の、奥左右の壁に加えて、本来なら存在している客席との間にある壁のこと。俳優はえてして第四の壁に向かって演技をしている)お客さんは第四の壁を越えることはない、第四の壁の向こうは別の世界であるっていう前提で通常の劇場空間は出来上がっているんですよね。でも私は、神社の境内にテントを立ててお祭りみたいな演劇を上演する椿組という劇団に長くいるので、そういう第四の壁がないものが好きだった。それで…イマーシブシアターを始めたきっかけは、私の場合は結構ミーハーだったなとも思うんですよね(笑)
マサオ・智絵 (笑)
夢子 コロナで外出自粛とか不要不急とか言われて劇場に人が行けなくなってしまって、配信が生まれた。あの頃は「配信でいいじゃん」って話題がよく出てきてたんです。でもそれじゃあ「劇場に足を運ぶ」ってことを、もう一回ちゃんと考えなくちゃねって話をしてたときに、イマーシブシアターって言葉を改めて知って、「へぇそういうのがあるんだ。それいいやん!」って。それで智絵さんやマサオさんとclubhouseで話してたら、何故かイマーシブシアターを作るお仕事がきちゃったんですよ。たまたま。もうびっくり!
マサオ ほんと、その引き寄せがすごい。
夢子 私も初めてだったし、そもそもそういうものを作ったことのある人もイマーシブシアター自体を知ってる人も、今よりもっと少なかったから、作るのはめちゃくちゃ大変だったんですけど、ホテル一棟を会場にして色んな空間を使って作らせてもらったんです。ドアを開けたらその小部屋の中に誰かの心の風景があって、そこにお客さんが入っちゃう、みたいなことを目指して作ってました。今振り返ってみると、私は、普段だったら入っていけないものの中に、演劇的な想像力を使って入っていくのがめちゃくちゃいいなと思ってて、それが私にとっては一番面白いことだったなって思う。今までショーを作るときもそれをやりたかったし、今まで書いたミュージカルもそういう内容を書いてたように思うんですね。それがイマーシブシアター作品を作ってみたら、「それをこんなにダイレクトにできる可能性が、イマーシブシアターにはあるんだ!」って思った。それがイマーシブシアターの特別なところ。
中野 ふむふむ。
◆五感、第六感すらも震えさせる当事者体験
マサオ イマーシブシアターならではのこととか、なぜイマーシブシアターなのかって話は色々あるけど、僕が一番思っているのは、やっぱり《当事者にする》ってことかなと思ってる。僕はムケイチョウコクをやる前からマサオプションっていうユニットをやってて、その最初の作品を作ったときのお客さんの反応がすごく鮮烈だったんだ。
中野 あ、私も観た作品だね
マサオ そうそう。僕と女性とのデュオ作品。その冒頭で、僕は振付をやりながらお客さんとも普通の会話をして、お客さんから「なんか変なやつだな」って思われながら近い関係になっていくのね。例えばそのお客さんが女性だったらナンパしてみるとか(笑)。それでそのシーンの終わりに、僕が共演者の女性をいきなりビンタする。それでその人が死んじゃう、みたいなシーンで始まる。
智絵 それって、ホントに当てるビンタ?
マサオ うん、まじビンタ。
智絵 それは…ヒュッってなる
マサオ 客席からリアルに悲鳴が上がった。
夢子 うわーすごいなにそれ!
マサオ そうなった瞬間に、物凄い密度と速度でその場が凍るんだよね。お客さん的には、今の今まで仲良く和やかに過ごしていて仲間みたいな感じになってた目の前の人が、いきなり人殺しみたいになる。お客さんの本物の悲鳴を舞台パフォーマンスで聞いたのは、あれが初めてだった。
中野 うん。
マサオ たとえば家族の誰かがガチ喧嘩してたら自分は関係なくてもすごい嫌な気分になったりとか、部活で先生に怒られたら怒られてない人もみんなしゅんってするとか、ポジティブな体験でも同じように、やっぱり当事者でしか味わえない体験や感覚っていうのがあると思うのね。僕はそれを成し得るのが、《イマーシブシアターのゼロ距離》なんじゃないかって思ってる。
智絵 うんうん。
マサオ 舞台と客席で、客席が安全圏で保たれてたら、それは遠くの戦争を安全な場所から見てるくらいの、「世界って大変だな、俺もしっかりしなきゃな」っていうくらいのどこか他人事を含んだ当事者感だと思うんだよね。もちろん作品のクオリティや観る人自身の感性によってそれが深まることはある。でもそれでもやっぱり、その鑑賞体験が本当に当事者体験だったかと言われたら、それは違うんじゃないかって思っちゃう。もっとリアルな当事者感を味わうには、おんなじ空間にその人たちと本当に一緒に存在しないと難しいよなって思うんだ。それが僕がイマーシブシアターでやりたいこと。
中野 ふむふむ。
マサオ あと、その当事者感って何がそうさせてるのかって、《第六感じゃないか》って気がしてて。
中野 第六感?
マサオ 第六感というか、五感をフルに活用してるってことかもしれない。たとえば客席から見たステージだとか画面越しのドラマとかでは感じ得ない、すごく微細な呼吸まで共有してる感じ。隣にいると、あの人なんか体温上がってるなってことまで感じるとか、その人の発している匂いが変わるとか。実際に日常では、人間は感覚をフルに使ってそういうことをやってるんじゃないかなって気もするんだ。
夢子 うん。
マサオ 目の前の人、横にいる人。その人が本当に息が苦しそうだと感じるとか、パッと見には楽しんでるように見えなくても一緒の場にいる自分には本当に楽しんでるって分かるとか。何を判断基準にして人間がそう感じるのかわからないけど、少なくともそれはゼロ距離の方がより感じられる気がする。そういう細かい感覚も含めて空間を共有することが、その人を当事者にするんじゃないかなって思うんだよね。それって今のところ、イマーシブシアターじゃないとできないことだと僕は思ってる。
中野 ふむふむ!《なぜイマーシブシアターなのか》という問いへのお三方の方向性・動機が、微妙に違うのが興味深いですね!重なっているようで実はちょっと違う。智絵さんは、俳優とお客さんの交流のあり方を《イマーシブシアターという形態の中で探索していきたい》という興味。インタラクションに特に焦点が当たっているという印象を受けました。
智絵 うんうん、そうですね。
中野 夢子さんは第四の壁、暗黙の了解として存在している前提、そういう《境界を越える仕掛け》みたいなところに興味があって、そこにイマーシブシアターの面白さを感じている。
夢子 ふむ!
中野 マサオくんは、人の知覚体験を、イマーシブシアターなら拡充できるんじゃないかと感じている。従来の演劇の主に視覚と聴覚に頼った鑑賞体験を、イマーシブシアターで没入していくことで、視覚と聴覚以外の五感、時には第六感すらも含めた感覚体験知覚を活性化させることが、当事者性の高い体験に繋がるんじゃないかと考えてるのかなって、私は理解しました。
マサオ そうだね。当事者性とリアルな知覚体験。体温を感じるような肌感覚とか、鼓動とか、生理的な体験も含めたような丸ごとの人間の知覚体験って、そういうことかも。
中野 イマーシブシアターの在り方に対して、ムケイチョウコクの独自性には、《決めないことを前提にすえる》だったり、《創作プロセスをシェアする》3つのポイントだったりがある。でもイマーシブシアターそのものに対するお三方の興味のベクトルは、それぞれ別の方向を向いてるのが面白いなと感じました。
智絵さん 言語化能力が、すごい!
夢子 嬉しい!
中野 あはは。大丈夫ですか、私、役に立ってます?
3人 もちろんです!
マサオ 興味の方向がそれぞれにあるっていうのは、これこそチームでやってる意味だよなって思って、今すごい嬉しかった!
みんな うんうん。
マサオ 重なっている部分がやっぱり軸にはなっていくし、その軸があるからこそのチームなんだけど、なんかやっぱ面白いものを作るときにはさ、ひとりの頭だけで作るより3人の頭があった方が3倍面白いものができるよね。お馬鹿な単純計算だけど(笑)
みんな (笑)
マサオ そういう視点ね!みたいなのは、コアメンバー同士もそうだし、関わってる人みんなの話聞いてて面白いなって思うことがたくさんあるもんね。
智絵 どんどん面白いものを作ってこうね!
マサオ・夢子 うん!
ムケイチョウコクのイマーシブシアターだからこそ、成し得ることとは
中野 次の話も今までの話と被る部分も多いと思うんですが、イマーシブシアターでないと成し得ないもの、イマーシブシアターならではのいいところってどんなことだとお考えですか?これ、私がダンスの創作の研究していたときにすごく言われたことなんですよ。「こんないいことがありますよ」って言っても「え、でもそれダンスじゃなくてもできるよね、なんでダンスなの?」ってすっごい聞かれるんです。
マサオ そうだよね。
夢子 なるほど。
中野 同じパフォーミングアーツならダンスじゃなくて「演劇でも良くない?」とか、非日常というのが魅力なら「キャンプファイヤーも良くない?」とか。だからこれは私が日々自分自身に問うている問いなんです。皆さんのお考えを聞いて、私も刺激を受けたいなって思って。
マサオ それでいうと先ず、ムケイチョウコクの作品はそもそもイマーシブシアターなのかって言う話が出てくるんだよね(笑)
中野 !?
夢子・智絵 (爆笑)
夢子 だよね〜
智絵 そこなのよ〜
マサオ 僕ら自身が、僕らの作品を「イマーシブシアターじゃないと成し得ない」とは、実はあんまり思ってなかったりする。
中野 なんと!
マサオ さっきみんながそれぞれ話したことは、確かに全部イマーシブシアターの特徴であり、魅力的な点だと思う。つまり、ムケイチョウコク以外のイマーシブシアターでも、魅力的なポイントとして挙げられることなんだよね。
中野 はい。
マサオ 確かに僕らは「イマーシブシアター作りたいよね」ってところからスタートしているし、そして今自分達の作品に「イマーシブシアター」という言葉を使ってもいる。でもそれは、今の時点ではその方がいいだろうと思ってるからで、実は今、作風として僕らが《イマーシブシアターであること》にこだわってるかと言ったら、そこは曖昧、あやふやだなと思ってる。
智絵 そうだね〜
マサオ 今僕らの間で時々話題に上がるのは、《ムケイチョウコクというジャンル》になっていったら良いよねってこと。
夢子 うん!
マサオ さっき言ってたみたいな《交流の中で生まれていく作品》とか、《ゼロ距離であること》に面白さを感じていて、今反転エンドの再演の稽古をしてていても、どんどん細かい…身体ってこうあるべきだよねってことに向き合っているんだけど…それをもし「イマーシブシアターの良さを強調してるんですね」と言われたら、それは的確じゃないなって思う。
中野 なるほど。
マサオ 僕らが今強調している良さは、《イマーシブシアターの良さ》じゃなくて《ムケイチョウコク作品の良さ》だよなって。
夢子 うんうん!
マサオ じゃぁそのムケイチョウコク作品の良さって何かって言ったらやっぱり、《人間がそこにいる》ってことなんだよな、と思う。
智絵 そうだよね。マサオさんの話を受けて、「イマーシブシアターじゃないと成し得ないこと」を「ムケイチョウコクじゃないと成し得ないこと」と置き換えてみますね。
中野 はい。お願いします。
智絵 私自身が客席で物足りなく感じていたものって、同じ空間でお客さんとして存在していてもその世界に影響を与えてはいないってことだったのかなって思うんです。ムケイチョウコク作品は、自分が居るだけで、この空間に価値を与えているという体験をお客様に提供できる。それってすごく嬉しいポイントなんじゃないかなと思います。
中野 ふむふむ。
智絵 通常の演劇でも「客席にお客さんがいないと始まらない」ってよく言うし、それは真実その通りなんですけど、でも実際にはその劇場の客席に空席があっても、その演劇は進行できるんですよね。だけどムケイチョウコク作品は、13人の登場人物役のお客さんがひとり欠けたら、本当に上演出来なくなっちゃう。普通に考えてそんなリスキーな公演ある!?っていう作品なんですよね(笑)。それぐらいお客さんに担ってもらうエネルギーが高いし、そんな高いエネルギーを担っていただくからこそ、お客さんに物語の中で自分の行動や存在に価値があるって感じてもらえるんだと思う。
夢子 うんうん。
智絵 それはただ単に自分の発言でお話が分岐するっていう単純なことではなくて、目の前の俳優と自分がゼロ距離で交流することによって、俳優の状態も変わるし、空間の空気が動く。その世界と、そこに今自分が、自分で自分のビューを決めて存在できることで、『この世界に私がいることは、価値があることなんだ』って、お客さんに感じて貰えたら、それはきっと世界の中に存在している自分の価値や自己効力感を再認識することに繋がっていく気がするんです。それが、ムケイチョウコクだから成し得ることなんじゃないかと思います。
マサオ 自分が相手を想像したことによって世界が良い方向に変わったり、あるいは自分の行動によって悪いことに変わったり。即興でゼロ距離だから、よりリアルにそれを体感してもらえる。そうやって僕らは、当事者性を上げられる手法の精度をあげようとしている。
夢子 もう殆ど言ってもらっちゃったね(笑)。ムケイチョウコクの今のイマーシブシアターの良いところ、ならではのところは、他者の視点をもって世界を体験することができるということ。でも結局はその他者イコール自分なんですけど。つまり《自分が、世界に影響できるんだ》ってこと。
中野 この質問に関しては、お三方は一致してるんですね。自分がいるだけでそこに価値が生まれるという価値付け、その価値は実は既にあるものなのだけど、私たちの普段の日常生活ではつい忘れてしまう、漠然と暮らしていたら気づかない自分の中に眠ってる価値を、ムケイチョウコク作品に没入することで、見出す、再認識できることが、ムケイチョウコクでないと成し得ないことなのかなと。
3人 うんうん
中野 「人間がそこにいる」ってマサオくんの言ってたことの中身だとか、夢子さんの言った「世界に影響を与えていく」こと、他者の視点で世界を観る体験、でもその他者は実はイコール自分だということ。智絵さんの言う「自分自身の価値やパースペクティブを問い直せる、あるいは既に自分にそれがあることを再認識することができる」。それらがムケイチョウコク作品に参加することでしか成し得ないものなのかな。
マサオ ねぇ。すごいじゃん、我々。
みんな (笑)
演劇体験がもたらし得る、教育効果とは
中野 最後の質問です。演劇の教育効果とはどんなものがあると思いますか?ムケイチョウコク作品と演劇を、ここでは敢えて分けずにお聞きしましょうか。先ずは、夢子さん。
夢子 私は、コアメンバー3人の中では唯一子どもがいない人なので、正直なところあんまりよく分かってない…(笑)
マサオ・智絵 (笑)
夢子 でも想像するに、誰かの視点に立って物事を見ることはとても大切なことだと思っています。それはおそらく子供に限らず、どんな年齢の人にも言えますよね。ある出来事が起きた時に、自分とは別の意見を持つ人がいることは、本来は至極当たり前のことじゃないですか。なのにその当たり前を受け入れられなくて起こる色んなことがある。でもそれって、「同じ出来事を違うバックボーンの人が見たら自分とは違うように見えるかもしれない」っていう成り立ちが腑に落ちているかどうかだけで、人の反応って全く違うものになるんと思うんです。
中野 はい。
夢子 そのことに気づかなかったり、気づいたとしても忘れちゃうこともきっとある。だから、演劇を通して、自分ではない人が見たらこれはこう見える、こう感じるってことを体験することは、隣にいる友達の視点から見たこれはもしかしたら自分とは違って見えるかもしれないっていう想像力や、寛容さというか、誰かとの交流が否定から始まらないこと、そういうものの見方や姿勢を育むのではないかと思います。これは演劇体験の教育効果としても言えると思うし、ムケイチョウコクでは特に実感してもらえると思う。
中野 ありがとうございます。では、智絵さんは?
智絵 私、小学生くらいから演劇部とか学芸会とか大好きでした。なんで好きだったかというと、舞台上だったら「これは演劇だから何やってもOK」って思っていたから。号泣するとかものすごく怒るとか、フィクションの中ではどんなに感情を表現しても恥ずかしくない、「だって今は演劇の時間だもん」っていうのが好きだったんです。逆に言えば、日常ではそんなふうに感情を表現できないんですよね。演劇を通すことで、子どもに限らず大人も、「これは虚構、フィクションの世界だから頑張っても恥ずかしくない」とか「思い切った行動をしてもOK、だって普段の私とは違うんだもん」っていうのが出せると思うんです。
中野 そうですね。
智絵 反転エンドでも、お客さんが演じる登人物役はそれぞれに、プロポーズするとか、心を開いて恋人にメッセージを伝えるとか、大切な人の背中を押してあげるとか、誰かのために行動する体験が散りばめられているんです。日常だったら恥ずかしかったり、遠慮したり、よくわからなくてスルーしたり、空気に逆らえなくて諦めたり、普段の自分だったらきっとしないって行動も、登場人物としてならできるんですよね。だけど、その登場人物としての感情や行動を生み出したのは、自分自身の心だったり脳みそなんです。それってすごく素敵じゃないですか?
夢子 うんうん!
智絵 本当はやりたかったけどできなかった体験を、演劇を通して体験できることで、その人の日常でその人の在り方が少し優しくなれたり、ちょっと勇気を持てたりってことに繋がっていけるんじゃないかなって思っていて。それって、演劇がもたらすことができる素敵な教育効果なんじゃないかなって思います。
マサオ 僕はもう、夢ちゃんと智絵さんが言ってくれました。
みんな (笑)
マサオ あとは…2人の言ってたことも含めて大きく3つあると思ってて、ひとつは夢ちゃんの言ってた《自分じゃない何者かになる》ということ。この人は何でこう言うのか、なんでこう考えるのかということを紐解くことによって、その人の生きた時代や環境を知る。「そうか、自分がそういう状況にあったら自分もこんな風に発言したかもしれないな」って思えるって、世界を広げると思うのね。僕自身、高校まではずっとゲームばっかやってて内向的だったのが、大学に入って演劇に出会って、「人や世界のことを想像してみるってこんな面白いんだ」って、そこで初めて思えたから。
中野 うんうん。
マサオ ふたつめが智絵さんの言ってくれたように《感情を解放できる》こと。日常で人間はなかなか抑え込まれて生きてるよなって思うし、そういう感情を、「解放して良い」というルールのもとにそれが許される場所で解放する体験ができることは、色んな場所ごとで立ち居振る舞いを変えても良いとか、解放してみたことによってそれまで自分の知らなかった自分の心に気づけるというのも、すごく重要だなと思う。
智絵 うん、そうだよね。
マサオ 3つめは、これも今までも話してたけど、《みんなで何かを作る》こと。しかもそれが演劇とか芸術であるって、すごく良いんじゃないかって思ってる。他に例えばスポーツのような、明確な目的やゴールがあって、そのために向かう準備だったり試行錯誤だったり集中することだったりを重ねることももちろん大事だと思うんだけど、演劇や芸術にはゴールがないんだよね。そういうゴールがないものに向かって議論したり頑張ってみることって実はとても大事、だって社会なんてそんなことばっかりだもん。そしてそれを上演することで「良かったよね」って思えることも意外に大事だよなって。上演芸術で集団創作することは、教育としてはとても良いんじゃないかなって思う。
中野 ふむふむ。夢子さんは、多様なパースペクティブ、多様な視点を自分の中に内在化させることで、否定から始まらない寛容さが生まれるんじゃないかという視点・ものの見方の話でしたね。
智絵さんは、普段ならやらない行動、本当はやりたかったけどできなかった行動をできる場があることの大切さ。これらが結果、夢子さんも言っていた寛容さ・優しさに繋がっていくんじゃないかという話でしたね。夢子さんの認知的な話へのつながりとしては、智絵さんのお話は、身体を伴って行動できることが重要なんじゃないかという、行動的な側面に焦点があたっていました。
それらを踏まえたマサオくんの話は、他者になることで自分が生きてる世界とは違う世界や人との関わりを想像できるようになるっていう、夢子さんと智絵さんの合わせ技のような認識でしょうか。知覚と行動の体験、自分じゃない存在を通して、自分らしさに気づくことや、感情を解放させることで自分の知らなかった自分に気づくといったことも含まれているように思います。そして、「ゴールや手続きがひとつではない芸術という文脈でのコラボレーション」というところが演劇体験ならではの教育効果を生む可能性があると考えているんですね。
わぁ面白い。ありがとうございました!
マサオ こちらこそ!優子さんと話したり、それを優子さんが纏めてくれるの聞いてて、僕らも楽しい。
智絵 ね!「なるほど!私そういう話をしてたのか!」って思えた!
夢子 本当は優子さんの目から見たムケチョ作品の話とかももっと聞きたかったんだけど…もっと時間がほしい!
マサオ それは今後またそんな機会を作れたらいいね
中野 それはぜひ!
3人 よろしくお願いします!
さてさて、まだまだ話し足りない様子ですが、とても濃密な対談となりました。
これからムケイチョウコクがたくさんの方とともにどんな進化を遂げるのか、今後も目が離せませんね♪
これからもどうぞお楽しみに!そして、一緒に楽しんでまいりましょう☆